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横浜地方裁判所小田原支部 昭和44年(ワ)1号 判決

原告

西山キミ

ほか三名

被告

東急車輌製造株式会社

主文

(一)  被告は、金二、九八六、九九八円と内金二、六八六、九九八円に対する昭和四四年一月一四日から支払ずみまで年五分の割合による金員を、原告かおるに支払え。

(二)  原告かおるのその余の請求を棄却する。

(三)  原告キミ、原告弥太郎及び原告カメの各請求を棄却する。

(四)  訴訟費用はこれを三分し、その一を被告の負担とし、その余を原告等の連帯負担とする。

(五)  この判決は、第(一)項に限り仮りに執行することができる。

事実及び理由

申立

原告等の求めた裁判

(一)  被告は、原告キミに対し、金一、八七二、六〇〇円と内金一、四七二、六〇〇円に対する昭和四四年一月一四日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

(二)  被告は、原告かおるに対して金六、九九九、三〇〇円と内金六、五九九、三〇〇円に対する昭和四四年一月一四日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

(三)  被告は、原告弥太郎に対し、金五五万円と内金五〇万円に対する昭和四四年一月一四日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

(四)  被告は、原告カメに対し、金五五万円と内金五〇万円に対する昭和四四年一月一四日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

(五)  訴訟費用は、被告の負担とする。

(六)  仮りに執行することができる。

被告の求めた裁判

(一)  原告等の請求を棄却する。

(二)  訴訟費用は、原告等の負担とする。

主張

原告等主張の請求の原因

一、事故

日時 昭和四三年七月二四日午后八時一〇分頃

場所 秦野市松原町七番地先国道二四六号線上

加害車 大須賀実所有同人運転の普通乗用自動車(埼五む第七〇六八号)

被害者 西山三郎(昭和三年九月二四日生れの当時三九才の成年男子)

態様 右地点を横断歩行中の被害者に衝突

結果 頭蓋骨折で翌二五日午前六時一五分頃死亡

二、責任

(1)  被告は、自動車の製造販売を業とする会社であり、大須賀は、被告の従業員で、自動車の販売外交を行つていたものである。

(2)  大須賀は、前方注視義務違反の結果本件事故を惹起したものであり、当日本件加害車輌を使用して自動車の販売を行つていたものであるから、被告は、右車輌を自己の業務のために運行の用に供していたものである。

なお、三郎には何の過失もなかつた。

三、損害

(1)  西山三郎の過失利益

大洋食品株式会社分月額九千円、東和蓄電器株式会社分月額平均四二、八六二円で月額合計五一、八六二円であるところ、西山三郎は死亡当時三九才であるからなお六三才まで稼働可能であるが、東和蓄電器の停年は、五五才であるので、その後は、全国勤労者平均の所得額で計算すると、その逸失利益の現在額は、別紙一及び二のとおり総計金七、七九八、三九二円となるが、本訴においては、その内金六、八九八、九〇〇円の限度で請求する。

(2)  西山キミは、右三郎の妻として、三郎の逸失利益の三分の一の二、二九九、六〇〇円を相続し、慰籍料金二〇〇万円及び弁護士費用四〇万円合計四、六九九、六〇〇円の損害賠償請求権を有する。

(3)  原告かおるは、三郎の子として、その逸失利益三分の二の四、五九九、三〇〇円を相続し、慰籍料二〇〇万円、弁護士費用四〇万円を加算すると、合計六、九九九、三〇〇円の賠償請求権がある。

(3)  原告弥太郎及び原告カメは、三郎の父及び母として、それぞれ慰籍料五〇万円及び弁護士費用五万円の各計五五万円の請求権を有する。

四、弁済

原告キミは、自賠責保険金二、八二六、七〇〇円の支払を受けたので、その請求権の未払残額は一、八七二、九〇〇円となつた。

五、結語

よつて、原告等は、申立欄記載のとおり、相続した三郎の逸失利益、各自の慰籍料と各々これに対する訴状送達の翌日から年五分の割合による遅延損害金及び弁護士費用の賠償を求める。

被告の答弁

一、原告等の主張する請求の原因第一項の事実は認める。

二、同第二項中(1)の事実は認める。同(2)の事実は否認する。

当日、大須賀は、会社を無断欠勤し、自己所有の自動車を運転してゴルフに出掛けた帰りの交通事故であつて、会社の業務とは、全く関係のなかつたものである。

仮りに、被告に何等かの責任があるとしても、三郎の方にこそ重大な過失があつたものであるから、過失相殺を主張する。

三、同第三項の損害額は、全て争う。

原告等の損害は、別紙三のとおりである。

四、同第四項中、原告等が自賠責保険金二、八二六、七〇〇円の支払を受けたことは、認める。

五、同第五項は争う。

自賠責保険によつて、原告等は超過支払を受けたことになる。

証拠〔略〕

判断

昭和四三年七月二四日午后八時一〇分頃、秦野市松原町七番地先国道二四六号線上において、右国道を横断歩行中の西山三郎(昭和三年九月二四日生の当時三九才)に、大須賀実所有の同人運転の普通乗用自動車(埼五む第七〇六八号)が衝突したため、三郎は、頭蓋骨折で翌二五日午前六時一五分頃死亡するに至つたことは、当事者間に争いがない。

被告は、自動車の製造販売を業とする会社であり、大須賀は、被告の従業員で、自動車の販売外交を行つていたものであることも、当事者間に争いがない。

〔証拠略〕を総合すると、「黒岩喜哉は、被告会社の自動車本部販売第二部第二課長で、自動車の販売外交を主たる業務としていたものであり、被告会社全体では、約五〇名の販売外交員が居り、黒岩の課では販売外交員は、当時七名か八名であつた。その内三・四名の者については社用車が与えられ、内二名二台の社用車は、主に神奈川県を担当区域として活動していた。大須賀も黒岩の部下であつて、神奈川県を担当する販売外交員であり、本件事故の約四ケ月前に本件加害車を買い入れていたものであつたが、同人には社用車を割り当てられていなかつた。課長の黒岩は、社用車とは別に自家用車を持つており、これを会社への出退勤に利用する外、自動車販売の外交に使用することを許され、そのガソリン代は被告会社において負担していた。社用車についてガソリン代を会社が負担していたのは勿論であつた。黒岩は、課長の地位にあつた関係上、社用としてゴルフをすることを許容されており、ゴルフの際に自動車の販売外交をすることが多く、その頻度も相当高かつたし、箱根方面もその販売担当区域であつた。大須賀としても、前に、ゴルフをしながら、顧客と自動車の販売について話をしたことが何回かあると共に。自動車を持つ販売外交員であるから、自動車を利用して外交をするのが通例であつて、その走行粁数からして、実際に自己の所有する自動車を利用して、販売外交をした疑も多分にある(自動車は毎日埼玉の方まで持ち帰る必要はなく、神奈川の方に置いておくことも可能である。)

大須賀は、昭和四三年七月二三日の夜、課長の黒岩から箱根のゴルフ場で、ゴルフをすることを誘われ、翌二四日早朝加害車を運転して箱根までやつて来て、同じく自家用車でやつて来ていた黒岩と落ち合い、終日プレーをし夕方食事をした後帰途についた(このゴルフには、顧客の招待を予定していたが、その招待者が来なかつたため、黒岩と大須賀二人だけのプレーになつたのではないかとの疑がない訳ではない。〔証拠略〕)。そうして、小田原市内で黒岩の自動車と別れ、午后八時一〇分頃、時速約六〇粁で、前照灯を下向にして本件事故現場附近に差しかかつた。

他方、被害者の三郎は、夕食時ビール一本を飲んだ後、近くの病院に入院している親戚の者にウドンを届けようと、黒つぽいゆかたにサンダルを履いて国道二四六号線に面した自宅を出、同時刻頃、現場附近で幅員一二米の右国道を南から北に斜に横断し始めた。大須賀は、別添図面〈一〉の地点で〈A〉の地点にある三郎を発見してあわててブレーキを踏んだが、前照灯を下向にしていた過失と、漫然と運転していた過失で三郎の発見がおくれて間に合わず、三郎を自車のボンネツトの上にはね上げ、さらに、自車を近くの電柱に衝突させたため、再び道路上に投げ突ばすに至つた。なお、国道二四六号線は、相当交通頻繁な道路であり、その道路に面して居住している三郎としては、国道の横断が危険であることを充分知悉していたと思われるにも拘わらず、夜間、黒つぽいゆかたを着て斜に横断するに至つたものであり、事故発生地点は、三郎方から東方約六〇米の距離にあり、その衝突地点の東方約九〇米の場所に、押ボタン式の信号機の備え付けられている十字型交差点があり、三郎の目的とする病院は、右交差点から国道と交差する道路を北に入つて行つたところにあつたものであるから、右交差点を利用すれば、安全に目的の病院に行くことが可能であつた。なお、七月二四日の、大須賀の出勤簿は出張扱いとなつていたが、事件後これを休暇と書き改められた事実もあつた。」と認められ、右認定に反する証人大須賀実、黒岩喜哉(第一・二回)石川英博、山崎友吉、田村秀次郎の各証言は、信用できず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

右認定の事実関係からすれば、本件事故発生の直接の原因は、大須賀の前照灯下向及び漫然運転に起因するものであるが、三郎にも信号機のある交差点を利用せずに、交通頻繁な国道を斜に横断した過失があり、その過失の割合は、五分五分と見るのが相当である。

問題は、大須賀の自動車運転と被告との関係であるが、自動車のセールスマンがゴルフを利用して顧客と接触して、これを自動車の販売に役立てるとすれば、会社の業務とゴルフとが全く無関係であるとは云い切れない面があるのみならず、本件において、当日の黒岩課長のゴルフ行は、前認定の事実関係からして、対内的にはともかく対外的には会社の業務の範囲内にあるか、少くともこれと密接な関係にあると云うことができると共に、これに随行した大須賀のゴルフ行も、被告会社の従業員である課員が課長に従つたものである以上、これ又、会社業務の範囲内ないしこれと密接な関係を有するものと解するのが相当であり、その帰途惹起された本件交通事故については、被告も又、運行供用者責任を負担しているものと見るのが相当である。そこで、次に損害額について検討する。

〔証拠略〕を総合すれば、「三郎は、東和蓄電器株式会社に守衛として一日二四時間二交替制の勤務をしていたものであり、その明け番の日には大洋食品株式会社に製パン工として勤務していたものであり、本件事故当時における賃金は、大洋食品の分一ケ月金九、〇〇〇円であり、東和蓄電器の分は昭和四二年度分が総額五七二、〇八六円、であるが、昭和四三年度分は月々の収入に増減があつて一定しておらないので、判然としないけれども、少くとも、月四二、八六二円以上の収入があり、その生活費は、月額一五、七〇〇円を必要とするところ、東和蓄電器には五五才の停年制がある。」と認められ、右認定を左右する証拠はない。

とすると、右一ケ月当りの賃金収入金五一、八六二円から生活費一五、七〇〇円を差し引いた残額についてホフマン式計算によつて現在額を算出すると、五五才の停年までの分は、別表一のとおり合計金四、八三七、〇六六円となることが計数上明らかである。

なお、弁論の全趣旨によれば、「三郎は、停年後も六三才に達するまで労働可能であるが、その収入は、地域的関係もあり、停年後は大分減少し、生活費を差し引くと月額二五、〇〇〇円であると見るのが相当である。」と認められ、甲第一二号証の全国平均の収入額によるべきではないといわなければならない。

とすると、停年後八年間の得べかりし利益の現在額は金一、一八八、九三〇円となる(第一年度一六二、一五〇円、二年度一五七、八九〇円、三年度一五三、八四〇円、四年度一五万円、五年度一四六三四〇円、六年度一四二、八三〇円、七年度一三九、五三〇円、八年度一三六、三五〇円となるが、その系数は、原告等主張の別表二のホフマン系数を利用した。)。

従つて、三郎の得べかりし利益の総額は、合計六、〇二五、九九六円となるところ、前記の過失割合によつて計算すると、被告において負担すべき金額は三、〇一二、九九八円となる。

〔証拠略〕によれば、右被告に対する損害賠償請求権を妻である原告キミが三分の一の一、〇〇四、三三二円を、子である原告かおるが三分の二の金二、〇〇八、六六六円(割り切れない余りの二円は原告かおるの分とした。)をそれぞれ相続したこととなる。

慰藉料については諸般の事情を考慮するとき原告キミが一五〇万円、原告かおるが金一〇〇万円と見るのを相当とするが、妻と子に右の慰藉料を認める以上、両親である原告弥太郎及び原告カメについては、これを否定するのを相当とする。

ところで、原告キミが、三郎の死亡により自賠責保険より金二、八二六、〇〇〇円の支払を受けているので、原告キミの損害賠償請求権は、全額弁済によつて消滅しているものというべきであると共に、なお金三二一、六六八円の過払となつているから、この分は、原告かおるの分の支払に充当されたと見るのが相当である。そうすると、結局原告かおるの損害賠償請求債権は、なお金二、六八六、九九八円存在しているものといわなければならない。

なお、本件における弁護士費用は、訴訟に現われた一切の事情を考慮して、金三〇万円をもつて相当とし、これは、勝訴した原告かおるにおいて取得すべきものと考える。

よつて、原告等の本件請求は、原告かおるに関する金二、九八六九九八円と内金二、六八六、九九八円に対する訴状送達の翌日から年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において正当として認容すべきであるが、原告かおるのその余の請求ならびに原告キミ、原告弥太部、原告カメの請求は、いずれも失当として棄却すべきであり、訴訟費用の負担については、民事訴訟法第八九条第九二条第九三条を、仮執行の宣言について同法第一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 吉永順作)

年令 月収 生活費 月数ホフマン係数

39 (51,862-15,700)×2=72,324

40 (51,862-15,700)×12×0.9523=413,244

41 (51,862-15,700)×12×0.9090=394,455

42 (51,862-15,700)×12×0.8695=377,314

43 (51,862-15,700)×12×0.8333=361,605

44 (51,862-15,700)×12×0.8000=347,155

45 (51,862-15,700)×12×0.7692=333,789

46 (51,862-15,700)×12×0.7407=321,422

47 (51,862-15,700)×12×0.7142=309,922

48 (51,862-15,700)×12×0.6896=299,247

49 (51,862-15,700)×12×0.6666=289,267

50 (51,862-15,700)×12×0.6451=279,937

51 (51,862-15,700)×12×0.6250=271,215

52 (51,862-15,700)×12×0.6060=262,970

53 (51,862-15,700)×12×0.5882=255,245

54 (51,862-15,700)×12×0.5714=247,955

55 (83,200-15,700)×12×0.5405=437,805

56 (82,800-15,700)×12×0.5263=423,776

57 (82,300-15,700)×12×0.5128=409,829

58 (81,900-15,700)×12×0.5000=397,200

59 (81,400-15,700)×12×0.4878=384,581

60 (75,600-15,700)×12×0.4761=342,220

61 (69,800-15,700)×12×0.4651=301,942

62 (64,100-15,700)×12×0.4545=263,973

¥7,798,392

第1 逸失利益

1 大洋食品株式会社分

108,000円-41,538円=66,462円

66,462円×4.36=289,774円

2 東和蓄電器株式会社分

イ 死亡時より55歳迄

572,086円-220,033円=352,053円

352,053円×10.98=3,865,541円

ロ 56歳より60歳迄

572,086円×1/2-150,548円=135,495円

135,495円×(0.55+0.54+0.52+0.51+0.50)=354,996円

〈イ〉+〈ロ〉=4,220,537円

3 (1)+(2)=4,510,311円

第2 慰藉料 2,500,000円

第3 過失相殺

4,510,311円+2,500,000円×0.3=2,103,093円

第4 受領額 2,826,000円

第5 支払額 0

〈省略〉

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